2024年1月25日
トラックドライバーの時間外労働規制の変更により、深刻な人手不足とコスト上昇が懸念されている「物流の2024年問題」。全産業で物流プロセスの見直しが求められている中、当社ではデジタル技術を活用した大規模な変革に取り組んでいます。従来は紙ベースで進められていた配送管理業務をスマートフォンアプリに集約し、ペーパーレス・チェックレス化を実現。配送に関わる負荷や時間を削減することで、当社内のオペレーションはもちろん、パートナー企業の業務効率化にも寄与しています。この変革をリードする関口修司(物流企画)と坂口雅紀(システム部門)に、プロジェクトの現時点での成果と今後の展望を聞きました。
当社が製造する製品は、当社が直接配送を行うことに加え、物流パートナーである運送会社の協力を得てお客さまのもとへお届けしています。「当社を含め、こうしたパートナー企業も“物流の2024年問題”に直面している」と関口は話します。
「当社製品を運ぶにあたって業務効率化を実現するためには、まず荷主である当社の体制を抜本的に変革する必要がありました。2024年問題に限らず、物の流れにおいてあらゆる変化が生まれている現代社会では、業界全体がさまざまな問題に直面することが予想されます。そのようななかで当社製品を安定供給すること、また、今後もパートナー企業と協同していくためにも物流DXは不可欠な取り組みなのです」(関口)
なぜ物流業務の効率化のためにDXが必要なのか。背景には、紙のやり取りを中心とした従来の仕事の進め方がありました。
「これまで、当社の物流現場では『ハンディターミナル』と呼ばれる専用端末を用いて荷物の確認や管理を行っていました。ハンディターミナルを使った作業では、伝票や確認帳票などをすべて紙で管理することになります。業務が煩雑になることに加え、書類の保管にも多大な手間を要していました」(関口)
システム企画を担当する坂口もまた、ハンディターミナルの使用を前提とした従来の業務プロセスに課題感を持っていたといいます。
「現場で使われているハンディターミナルは、30年以上前に導入された機器なんです。機能面および拡張性、処理のレスポンス、ランニングコストなどさまざまな点において、システムの観点から見ても全面的な刷新が必要でした」(坂口)
新たなシステムを現場で活用してもらうためにはどのような端末がふさわしいのか。2人がたどり着いた結論は、多くの人にとって日常的になじみがあり、感覚的に操作を理解できる「スマートフォンのアプリ」に機能を集約することでした。
「まずは従来のハンディターミナルと同じことを、スマートフォンでできるようにしました。荷物の確認や管理はすべてアプリ上で完結。新たに開発したUI(User Interface)によって、データの閲覧や検索にかかる手間も大幅に削減しています」(坂口)
従来業務をアプリに集約後は、これまでの業務のあり方を大きく変える機能を次々に導入していきます。
■ 帳票のデジタル化
これまでは支店や物流センター内で、紙ベースで管理していた配送先や配送製品のデータ。これらをアプリ上で管理し、配送ルートの表示や入れ替えも可能に。加えて、配送完了後の報告業務でもペーパーレス化を実現。
■ 誤納品の防止
ヒューマンエラーによって発生していた誤納品をシステムによって抑制。スマートフォンのGPS機能を使い、登録された配送先の住所とトラックの現在地を照合することで配送先間違いに気づけるようにした。トラックから製品を降ろす際の検品時にもシステムを活用。
■ 納品実績の把握
製品の納品が完了した時点で、物流拠点や営業部門などとの間で即座にデータ共有。届け先の担当者不在によって発生する未配送の状況もリアルタイムで確認できるようにした。営業担当側にも即時に納品実績が共有され、効率的に店舗を訪問できるようになり、物流と営業の一体化にも寄与。ドライバーの帰着後に行っていた報告作業にかかる時間も削減。
2023年に続々と実装され活用が進んだ新システム。しかし、開発の道のりは決して平坦ではなかったといいます。
「当案件については、開発部隊を社内に設けておらず、ベンダー企業へ委託して進めています。物流DXによってどんな変革を成し遂げたいのか、そのためにどのような機能を必要としているのかなどの要件定義が曖昧な状態では、狙い通りのシステムを実装することができません。開発がスタートする前段階から入念に社内やパートナー企業へヒアリングを行い、現場の課題やニーズを正しく理解できるよう、何度も現場訪問重ね、リアルな現状把握に努めました」(坂口)
物流DXのプロジェクトは「新システムを開発して終わり」ではありません。目指すゴールは新たなシステムが現場で実際に活用され、業務効率化や新たな価値の創造につながっている状態です。そのため私たちは、導入後の運用サポートにも力を入れています。
「ドライバーさんたちの中には、これまで慣れ親しんでいたシステムが変わることに不安を感じていた方もいると思います。『新システムを活用すれば業務がはかどる』ことを実感してもらえるよう、導入時には各地の物流拠点をできる限り訪問し、使い方のレクチャーなどを進めました」(関口)
「私はこれまでに数々のITプロジェクトを担当してきましたが、今回の物流DXでは特に運用サポートに力を入れているんです。導入開始段階ではパイロット拠点(先行実施拠点)に張り付いて現場での課題を検証しました。本格稼働後も目立ったトラブルは見られず、運用が進んでいます」(坂口)
「今後は、トラックの動きをリアルタイムで把握し、倉庫からの出発時間や配送先への到着時間をもとに最適な輸送ルートを分析・提案するなど、動態管理機能の実装にもチャレンジします。当然のことながら、お得意さまとの取引に関わる機能については、当社の都合でお得意さま側の利便性を損なわないように設計することを大前提としています。慎重に検討を重ね、最終的には当社とパートナー企業だけでなく、お得意さまの業務効率化にも貢献したいと考えています」(関口)
関口は営業として入社し、物流倉庫のマネジメントを経験しています。一部の物流拠点では、配送完了後の報告データを入力するために、帰着後のドライバーが共有PCの前で列をなしている光景も見られました。そうした業務も現在ではスマートフォンアプリによって自動化が進み、ドライバーの業務負荷は大幅に軽減されています。
「現場にいたからこそ、現場が抱える苦労は肌を刺すように分かるんです。物流DXによってそうした苦労をなくしていければ、ドライバー職を目指す若い人も増えていくはず。パートナー企業とともに、物流業界のイメージを変えることに貢献していきたいと思っています」(関口)
「私たちのチームは、物流DXプロジェクトを通じて、現場の生の声を聞きながらシステムを作り上げていくことの重要性を改めて学びました。どんなに正しい方法論に則って開発されていたとしても、パートナー企業やお得意さまの思いを無視したシステムには何の意味もありません。2024年も次フェーズの実装と開発に注力し、現場で真に活用されるシステムを実現していきます」(坂口)