2024年4月10日
2024年4月1日より、トラックドライバーの時間外労働に年間960時間の上限規制が適用され、ドライバーの労働時間が短くなることで人手不足の影響が懸念される、「物流の2024年問題」。
コカ・コーラ社製品の安定供給を担う当社では、先んじてさまざまな対応を進めてきました。核となる取り組みはドライバーの待機時間削減です。従来の物流拠点では一部の時間帯に車両が集中し、長時間の荷待ちが発生。当社の輸送力の低下、さらには協力輸送会社の売上減少に繋がる、好ましくない状況となっていました。
この問題を解決するために2022年から導入を進めてきたのが「車両予約システム」です。輸送会社がトラック手配時に物流拠点の入場時間を事前予約し、スマートフォンを使ってオンラインでドライバーと倉庫に情報を連携、事前の荷物の準備や受付、誘導、入出荷作業をスムーズに行うことを可能にしました。国が定める荷待ちに関するガイドライン(2時間以内、荷待ち時間の記録管理)をクリアし、現在は荷待ち時間状況のデータを分析して「ゼロ時間待機」の目標達成を目指しています。
このプロジェクトの背景にはどんなストーリーがあったのでしょうか。取り組みを主導するロジスティクス戦略グループ統括部の髙木宏治、田中健司、佐藤由理に聞きました。
ロジスティクス戦略グループ統括部長を務める髙木宏治は入社21年目。ほぼすべてのキャリアを物流に捧げてきました。
「20年前と比べて、輸送を取り巻く環境は明らかに難しくなってきていると感じます。昔は『明日緊急でトラックを集めてほしい』という状況でも、何とかなる風潮がありました。しかし、ドライバーさんの労働時間が規制されている今ではそうはいきません。モノが運べなくなる時代が差し迫っていると感じています」(髙木)
ここ10年来、ずっと危機感を抱き続けてきたと話す髙木。これまでにも巨大物流拠点を立ち上げ、効率化・機械化・省人化に取り組む「新生プロジェクト」を始めとする多くの物流改善に取り組んできました。当時からドライバーの待機時間に関する課題を直視し、待機時間を短くしてトラックの実車稼働率を高める試みを進めてきたといいます。
同じくロジスティクス戦略グループ統括部に所属する田中健司は、かつて現場で勤務した経験から、「数十台ものトラックが滞留してしまう現場を日々見てきた」と振り返ります。
「倉庫ではそもそも、トラックの入出荷をさばける台数が物理的に決まっています。1時間あたり1つの荷さばき場で荷物を積み降ろしできるのはおおよそ2台。仮に1倉庫に10カ所の荷さばき場があれば、1時間あたり20台の入出荷に対応できる計算です。これに倉庫の稼働時間をかけ合わすことで1日あたりの荷役処理能力が決まります。しかし実際にはドライバーさんの諸事情や道路交通事情もあって、常に倉庫の処理能力通りに動いているわけではありません」(田中)
「特に物流パートナー社のドライバーさんにしてみれば、運んでいるのは私たちの荷物だけではありません。予定通りに動きたいのはやまやまでも、なかなかそうはいかないのが現実です。待機時間を削減するといっても、倉庫目線でドライバーさんが待っていないことを実現するだけでは意味がなく、実際は倉庫に入れないだけでドライバーさんが近くで待機しているかもしれない。ドライバーさんの目線も踏まえて取り組まなければ、2024年問題は解決できないんです」(髙木)
さまざまな要因が絡むドライバーの待機時間問題を解決するには、どうすれば良いのか。当社はその問いに、「トラック受付/予約サービス」を導入することで糸口を見出しました。
現場でのシステム導入を担う佐藤由理は、その特徴を「クリニックや飲食店の予約受付システムのように、誰もが簡単に操作できること」と説明します。
「前日に物流パートナー社が予約、ドライバーさん来場前に倉庫側で受け入れ準備、ドライバーさんがスマートフォンアプリで倉庫受付すると、倉庫側で受け入れ体制を確認します。その後、倉庫で受付け可能になれば改めてドライバーさんへアプリ上で通知し、停車場へ誘導。これらの経過時間やトラックの積み込み作業完了タイミングなどはすべてシステム上に記録し、倉庫ごとに効率性を分析できるようになっています」(佐藤)
予約システムの仕組みを活用しながら倉庫運用の変更も進めていったといいます。たとえば倉庫側では予約枠だけでなくフリー枠も確保し、クリニックが急患を受け入れるように、イレギュラーな入庫依頼にも対応できるようにしました。
「最近では当社以外にも同様のシステムを導入する企業が増えています。ただ、ドライバーさんとしては予約枠が少なかったり、締め切り時間が早すぎて当日のイレギュラーに対応しきれなかったりすることもあるようです。そうなるとドライバーさんはどこかで時間を潰すしかありません。記録には残らないかもしれませんが、結局待機時間が増えてしまっているんです」(佐藤)
こうした実状にも対応するため、直近ではさらなるシステム改修も予定。物流パートナー社やドライバーがシステムやアプリ上で倉庫の空き状況を確認し、当日の予約を変更できるようになる予定です。ここまでフレキシブルな仕組みは同種のシステムでは珍しいものの、「実現しなければ真の意味での効率化にはならない」と佐藤は強調します。交通事情や日々のスケジュールに合わせて動けるようにすることこそ、待機時間問題の本質的な解決につながるのだと考えます。
そして、このシステムを効果的に運用していくには倉庫側の理解と協力が欠かせません。ここでも大切なのは「ドライバーと倉庫、双方の視点」です。
「輸送当日の予約変更は、倉庫から見れば負担が増すように感じるかもしれません。しかし倉庫が持つ荷役処理能力を正しく活用し、フレキシブルに対応できれば、結果的には倉庫業務の効率化にもつながります。だからこそ誰もが使いやすいシンプルで簡単なツールを準備し、倉庫側にもメリットがもたらされることを丁寧に伝えています」(田中)
将来的にはシステムの自動化を推し進め、「ドライバーが変更を依頼すれば自動で基幹システムに連動し、予約受付や出荷準備にすぐに対応できる状態」を目指しているといいます。
車両予約システムの導入後は、ドライバーにも倉庫にも目に見える変化が起きました。
「物流パートナー社との間では、待機時間が膨らむ場合、別途請求をいただく契約となっています。このことにかかっていたコストがシステム導入後には従来の1割以下に大幅削減できました。今後は2時間未満の待機時間についても検証し、改善を進めていきたいと考えています。
また、倉庫とドライバーさんの通信費においても、アプリ上でやり取りを完結できるようになったことで、こちらのコストも従来の1割以下まで削減を行いました。」(佐藤)
システムを導入した倉庫からも「大きな反響があった」と田中は話します。
「車両コントロールの精度が高まったことでトラックの滞留は劇的に減りました。現場で会うドライバーさんからも『倉庫に到着する時間が読めるようになり、効率的に動けるようになった』『休憩時間を安心して過ごせるようになった』などの評価の声をたくさんいただいています」
さらにトラック滞留が発生していない倉庫にも目を向けて、たとえば24時間稼働の倉庫で、それまで夜間に行っていた車両受け入れを日中に変更することで人員配置を最適化。倉庫の人員不足にも貢献しています。(田中)
多くの関係者を巻き込んで進めてきたプロジェクトは、着実にその成果を広げています。最近では繁忙期に一時的に借りた自社以外の倉庫で、ドライバーから「ここにも車両予約システムを導入してほしい」と要望されるまでになりました。
これまでの歩みを振り返って、髙木は「ドライバーさんと倉庫だけでなく、多方面でWin-Winの関係性を作ることができた」と語ります。
「安定した製品輸送に貢献できていることはもちろん、営業などの他部門にも、私たちの取り組みへの理解が広がっていることをうれしく思っています。物流が抱える課題を認知してもらい、解決策をともに考えていける環境を作れたことこそが、このプロジェクトの最大の成果だったのかもしれません。
世の中では物流の2024年問題がようやく注目されるようになりましたが、まだまだ問題は山積しています。今後も前例にとらわれることなく取り組みを進め、得られた知見を積極的に発信していきたいと考えています」(髙木)