CCBJHグループ(以下、当社)は、「環境に関するポリシー」において、私たちの事業活動に欠かせない水を含めた自然資源を有効活用し、地球環境を持続可能な形で次の世代へ引き継いでいくことが重要な使命であると定めています。水を使用するビジネスを行う当社にとって、森林、草原、その他の水源域および生態系を保全していくことは必要不可欠です。非財務目標「CSV Goals」の一環として、水源涵養率の維持や水使用量の削減・効率化を目標とし、優先地域における水の保全・還元を進めることで、生物多様性の保全に取り組んでいます。
2022年12月には自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の取り組みに賛同し、TNFD フォーラムへ参画しました。また、2023年12月には、TNFDに対応した情報開示を促進する企業として「TNFD Adopter」に登録しました。
TNFD提言に基づく初期的な開示として、2023年9月に公開されたTNFDv1.0を参考に、自然に関する事業リスク・機会の分析を行うとともに、水・生物多様性に関する優先地域の特定を行いました。
当社の事業領域における生物多様性保全への取り組みを強化し、持続可能な社会の実現を目指してまいります。
当社は、2023年1月に設立されたサスティナビリティー委員会を設置し、 気候変動や生物多様性を含むさまざまなサステナビリティー課題について方針・戦略などを定める体制を強化しています。
委員会は、議長を代表取締役社長 最高経営責任者が努め、年に4回開催されます。構成メンバーであるエグゼクティブリーダーシップチーム(ELT *)がサスティナビリティー課題について議論を行い、 決定した方向性や戦略を速やかに各部門へフィードバックすることにより、各部門におけるサスティナビリティー活動の徹底と円滑化を図っています。
取締役会は水資源および生物多様性の保全を含むサスティナビリティー関連のリスク対策が重要だと考えております。また、戦略や目標等の経営方針を策定するにあたり、サスティナビリティー委員会で議論された方針や戦略の報告を受け、リスク選定および成長性を考慮しています。2022年以降は水資源および生物多様性を含む自然関連課題への対策を積極的に評価しており、経営陣による定期的な討議に加えて、年次計画および中期計画にも対策を盛り込んでいます。また、決算説明会においては、ステークホルダーのみなさまに当社のESGに係る取り組みの実績を説明しています。
* ELTはCEOと各本部長を含めたCCBJHグループ全体のマネジメント組織
当社は、国連の「世界人権宣言」、国際労働機関(ILO)の「労働における基本的原則および権利に関するILO宣言」を含め、人権を促進し保護することを目的とした国際的な人権原則を事業活動において遵守するとともに、日本国内における同和問題をはじめとするさまざまな人権問題の解消と私たちの職場における人権尊重の確立に向けた「人権に関するポリシー」を定め、人権尊重の徹底を図っています。
そのポリシーでは、地域社会のみなさまを重要なステークホルダーと位置づけ、事業活動をするにあたって、ステークホルダーのみなさまのご意見に耳を傾け、そこから学び事業活動へ反映するために協働すること、対話に努めることも定めています。
また、サプライヤーのみなさまには、人権、環境、労働等に対する当社の価値観を反映したサプライヤー基本原則(SGP: Supplier Guiding Principles)を理解していただき、人権尊重の意識が徹底されることを求めています。
当社では、重要リスクのひとつに「持続可能性」を捉えており、TNFDへの対応が重要だと考えています。2023年9月のTNFD提言に基づき、自然に関するリスク・機会を評価するために、TNFDが推奨する検討枠組みであるLEAPアプローチを用いました。
当社の事業と関係する自然関連リスクを把握しました。中でも、当社の事業と関連性の高い自然関連テーマについてリスク事例を調査し、当社のバリューチェーン全体にわたる潜在的な自然関連リスクを特定することで、それらリスクが事業に与えうる影響の大きさを考察・評価し、これらの評価に基づき、事業における重要課題の特定を行いました。その上で、優先地域の特定分析においては、水資源にテーマを絞り、実施しました。
上記分析の水リスク評価においては、世界資源研究所(WRI)の AQUEDUCT 、IBAT(Integrated Biodiversity Assessment Tool)等の公開ツールを使用しました。
当社は、リスクと機会の管理を可能にするエンタープライズリスクマネジメント(ERM)を含む、有害事象への対応と回復を行うと同時に事業の成長をサポートする予防的および対応的活動を含むビジネスレジリエンスプログラムを導入しています。当社のリスク管理体制に関しては、TCFD提言に基づく開示をご参照ください。
分析の結果として「水」、「気候変動」、「周辺生態系」、「森林等の土地利用」、「廃棄物」の5つを当社の事業における自然に関する重要課題として特定しました。
まず、当社事業に関連するインダストリーにおける自然関連リスクをスクリーニングし、さらに自然リスク評価ツールであるAQUEDUCT 、IBAT等を用いて、自然関連課題における依存と影響を評価しました。
さらに、事業へ与える影響が大きいと考えられる自然関連リスクが顕在化した事例を調査しました。調査対象には、SBTN High Impact Commodity Listを参考に、当社の主要製品である飲料の原材料としてトウモロコシ・テンサイ(ビート)・甘藷(いも)・サトウキビ・コーヒー豆・茶葉・乳製品、容器梱包材としてプラスチック・アルミニウム・鉄を選定しました。また、関連する自然関連テーマとバリューチェーンとの関係性を考慮したうえで、自然関連リスクの重要度を評価しました。
これらの調査・分析の結果を踏まえ、ENCOREでの分析結果を縦軸「セクターとの関係性」、リスク重要度評価の結果を横軸「自社事業との関係性」とし、当社事業に関する自然関連リスクをマテリアリティ・マップ(下図)に整理しました。
水を含む特定した5つの重要課題のコスト上昇や供給の不安定により、財務計画に影響を与える可能性がある主要なリスクについて、以下の通り整理しました。他方、トレーサビリティ強化、高度な技術開発や製品提供によって、生物多様性の保全に貢献しうる機会につながることも判明しました。自然関連における重要度が高いリスクや与えうる影響について、検討を行った結果、当社組織の事業、戦略、財務計画に直ちに著しい影響をおよぼす項目はないことを確認しました。
重要度が高いリスク | 詳細 | 発現時期 |
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規制の導入・強化 | ■森林破壊や森林の劣化に繋がりうる原材料に対する開示要請や販売規制への対応 ■プラスチックに関する規制(プラスチック廃棄物の排出抑制、リサイクルなど)への対応 ■生物多様性保全上の重要エリアからの取水制限が導入・強化される可能性 |
短期~ 中期 |
調達コストの上昇 | ■農園や鉱山開発に伴う周辺生態系への影響や森林破壊等に係る抗議活動が活発化し、対応により原料調達コストが上昇 ■農園から排出される汚染物質(肥料や農薬等)の流出により沿岸域の生態系が深刻化し、対応により原料調達コストが上昇 ■地下水税の導入や水源涵養活動への協力金要請による調達コストが上昇 |
長期 |
供給の不安定化 | ■干ばつなどの影響により原材料の生産量が減少し、供給が不安定化 ■農園や鉱山における水質汚染が地下水源や水域生態系に甚大な影響を及ぼした場合、業務停止命令により供給が不安定化 ■工場における不適切な排水処理や漏水事故、有害物質の漏洩により取水障害が発生 |
中期 |
環境負荷の低い技術の開発・普及 | ■容器リサイクルや農地での水使用量削減に向けた技術開発に係るコストが発生 ■工場における節水・排水処理の設備・技術開発に係るコストが発生 |
中期 |
消費者・社会からの批判 | ■水ストレスの高い地域での取水により地域住民に影響を及ぼす場合、取水停止命令や不買運動が発生 ■サプライヤー農園での排水影響、過剰取水、森林破壊などに対する環境対策が不十分な場合、評判低下やブランド棄損が発生 ■プラスチック汚染に対するNGO団体からの批判が高まり、評判低下やブランド棄損が発生 |
短期 |
投資家からの評価 | ■生態系への配慮不足を懸念した投資家や金融機関からのダイベストメントが発生 ■ESG評価機関の生物多様性に関する評価項目に対応できず、ESG評価が低下 |
短期 |
賠償金の発生 | ■過剰な取水や不適切な排水処理により周辺生態系や地域住民に影響を及ぼす場合、生産停止や損賠賠償金の支払いが発生 | 短期 |
重要度が高いリスク | 詳細 | 発現時期 |
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自然災害の増加 | ■洪水や浸水による有害物質の漏えいなどの水災により、設備被害の発生や工場停止に繋がる | 短期 |
重要度が高い機会 | 詳細 | 発現時期 |
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効率化ソリューションの普及 | ■自然関連リスクの高い原材料のトレーサビリティ強化や認証取得によりコンプライアンス・コストが削減 ■サプライヤー農園での環境対策や環境負荷の低い容器素材の採用により市場評価が向上 ■水資源のカスケード利用の高度化により生産コストが削減 |
中期 |
市場評価の向上 | ■国際ガイドラインに整合した事業戦略の策定によるESG格付けや市場評価が向上 ■ESG投融資の拡大を背景に、生態系への配慮や貢献が資本市場で評価され、資金調達において有利に働く他、企業価値が向上 |
中期 |
R&D資金の獲得 | ■生態系保全に活用可能な技術や高度なリサイクル技術の開発を進める際にサステナブルファイナンス等での資金調達が可能 | 長期 |
エシカル消費需要の獲得 | ■生物多様性に寄与する製品の開発や持続可能な認証を受けた製品の提供増加により収益が増加 | 長期 |
消費者・社会からの評価 | ■生物多様性損失のリスクへの高度な対応や生物多様性に寄与する製品の開発・提供により、消費者・社会からの評判が高まり、企業ブランドが向上 | 中期 |
特定した5つの重要課題のうち、まずは当社事業にとって最も重要である「水」を対象にバリューチェーンのロケーション分析を実施し、課題を深掘りしました。ロケーション分析では、水資源の利用と環境中への排水について、公開ツールを用いて調達国や事業拠点の水・生物多様性に関するリスクを評価することで、優先地域を特定しました。
バリューチェーン下流においてはリスクが確認されなかったため除外とし、直接操業および上流において分析を実施しました。
当社の国内17工場周辺の水資源利用については、AQUEDUCTおよび湿地データベースGlobal Wetland、 IBATを用いて、水資源の逼迫状況や取水による影響を受けうる生態系の分布を確認し、水資源リスクを評価しました。
結果として、当社の工場はいずれも水関連課題との高い関連性がないことが確認されました。
さらに、水資源の利用では工場周辺の上流側25km圏内、環境中への排水は下流側70km圏内における保全されるべき地域等の有無を分析することで、生物多様性評価を実施しました。
その結果、製造拠点の水利用・排水が影響しうる重要生態系に近接した製造拠点10か所が特定され、それらの対応策を検討しました。
依存/影響 | 評価項目 | 分析対象 | 拠点数 | 直接操業における指標 | 主な対応策 |
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水資源の利用 | 水ストレス | 水枯渇リスクが高いと評価された地域 | 0/17 | 「2025年まで水源涵養率200%維持」 「2030年までに水使用量30%削減」 コカ・コーラシステム独自の水管理基準 (KORE)100%遵守 |
工場周辺流域における水源涵養活動 工場周辺流域の水源域において、地域や自治体、森林組合等と協定を締結し、地域ステークホルダーとともに「水源涵養力」を高めるための水源涵養活動を推進しており、411%水源涵養率を達成しています(2023年) 水使用量の削減 最新技術を備えた製造ラインの導入、モニタリングによる製造プロセスや工場設備の改善を日々行い、使用する水の量の削減や効率化にも取り組むことで、20%削減を達成しています(2015年基準) 水管理 国内法およびコカ・コーラシステム独自のマネジメントシステム(KORE)の水管理基準を全17工場、100%遵守という目標を掲げ、取水、排水処理に関しては法定基準よりも厳格な自主基準を設定し、厳格に管理しています。 水リスク評価 コカ・コーラシステム独自の源水脆弱性評価(SVA: Source Vulnerability Assessment)を全工場で5年毎に実施し、水文学専門家の承認を得ています。SVAに合わせて、水管理計画(WMP: Water Management Plan)を策定し、経営層の承認を受けた上で水源保全の取り組みを計画的に実行しています。計画の進捗や効果に関しては、年1回評価しています。 |
生物多様性 | 湿地や重要保護区、自然環境として保全されるべき地域の有無 ※上流側25km圏内 |
5/17 | |||
環境中への排水 | 湿地や重要保護区、自然環境として保全されるべき地域の有無 ※下流側70km圏内 |
7/17 | |||
地域の生活用水に使用されている河川の有無 ※下流側70km圏内 |
1/17 |
水ストレス:水不足によって日常生活に不便を感じる状態のこと。人口1人当たりが利用可能な年間水資源量が一定を下回ると水ストレス下にあるとされる。
製造拠点10か所のうち、3か所は2つの分析対象に該当している。
当社の主要原材料かつ水リスクの高い原材料として、トウモロコシ・サトウキビを対象にロケーション分析を実施しました。
トウモロコシおよびサトウキビの栽培・加工には多くの水が必要であり、島嶼部等水資源の乏しい地域ではその枯渇の要因となりえます。また、トウモロコシは干ばつによる収穫減が発生している地域もあることから、気候変動によって将来的に深刻な影響を受ける可能性もあります。糖類や甘味料の原材料として、トウモロコシ、サトウキビの主な調達先を確認し、さらにそれらの国における各原材料の生産地域を特定しました。それらの地域を対象に水資源の利用における影響を把握するためにAQUEDUCTを用いた評価を行い水ストレスの高い地域を評価しました。
特に島嶼部で栽培されているサトウキビは、肥料の溶出、農薬・表土の流出および製糖工場からの排水によって沿岸部のサンゴ礁が悪影響を受けていることが指摘されています。糖類や甘味料の原材料として、トウモロコシ、サトウキビの主な生産地域を対象に、水質汚染リスク評価ツールWater Risk Filterと海洋生態系データベースOcean+ Habitatを用いて、水質汚染レベルおよび海洋生態系保護地域を確認し、優先地域を特定しました。
依存/影響 | 原材料 | リスク例 | 当社調達先のうち、優先地域が特定された国 | バリューチェーン上流における指標 | バリューチェーン上流の取り組み |
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水資源の利用 | トウモロコシ | •栽培・加工時の地下水の利用による水資源の枯渇 •気候変動による干ばつ深刻化に起因する生産量減少 |
アメリカ ブラジル 南アフリカ |
持続的な原材料調達100% (2025年までに) |
水資源や生物多様性に配慮した原材料の調達やステークホルダーと連携した活動に向けたサプライヤー基本原則(SGP)の遵守およびそれに基づく監査、外部機関EcoVadisによるサプライヤー評価を実施しています。 |
サトウキビ | オーストラリア タイ |
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環境中への排水 | トウモロコシ | •農園からの肥料の溶出や農薬・表土の流出に起因する、淡水生態系への悪影響や沿岸部のサンゴ礁への悪影響 ・加工場からの排水による淡水生態系への影響 |
アメリカ 南アフリカ |
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サトウキビ | オーストラリア 日本 |
当社では、TNFDのコア開示指標のうち、 GHG排出量について開示しています。
なおコア開示指標のうち、水ストレス地域からの取水と消費量については、当社の製造拠点を対象とした水リスク評価の結果、水ストレスの高い地域に立地する製造拠点はないことを確認しています。
当社は、非財務目標「CSV Goals」を定め、持続可能な原材料調達およびサプライヤー基本原則の100%遵守、自然関連では「2030年までに水使用量30%削減(2015年比)」および「2025年まで水源涵養率200%維持」を掲げて水資源保全を推進することで、持続可能な事業と社会、そしてミッションの実現に向けて取り組みを進めています。
日本のコカ・コーラシステムでは、工場で使用する源水を保全するために日本コカ・コーラが定める源水保護ガイドラインに沿って定期的に源水の脆弱性を評価し、源水保護計画を策定しています。そして同計画のもと、製造過程における水使用量の削減(Reduce)、製造過程で使用する水の再利用(Recycle)、水源域の水源涵養(Replenish)を軸とした活動を展開しています。
当社が保有する全17工場の水源域において、自治体や森林組合や水源保全に関する協定を締結する等、地域社会との連携を強化しており、 2023年の水源涵養率は目標を大幅に上回っています。
現時点で開示が困難なコア開示指標については、詳細な分析やデータ収集を実施し、開示準備を進めるとともに、TNFDで求められているシナリオ分析や新たな自然関連の目標設定等、さらなる情報開示に努めてまいります。